トゥルーヴィル時代
遠く理想と離れてしまったパリでの生活に疲れてしまったからなのか、生粋のパリジャンであるサヴィニャックがパリから北西に位置するノルマンディー地方の小さな港町、トゥルーヴィルに移り住むことにしたのは1979年のこと。しかし、このまま第一線から退いてしまうのかと思われたサヴィニャックですが、1981年に業績不振に悩んでいたシトロエン社の広告キャンペーンポスターを手がけ、大復活を遂げます。この『シトロエン前へ』キャンペーンは、大規模なポスター掲載を行うにあたって斬新なアイデアを探していた広告プロデューサー ジャック・セゲラが写真広告主流の時代に強力なインパクトを残すべく「手描きポスター」を選び、ならばとフランス最高の手描きポスター職人に依頼をすることにしました。この大成功を収めたキャンペーンはサヴィニャックの最後の大きな商業広告の仕事となり、1981年にフランスポスター大賞、84年には広告掲示大賞を受賞しました。
依然、広告業界では代理店システムが主流でしたがトゥルーヴィルに移り住んでからも仕事が途絶えることはありませんでしたが、トゥルーヴィルに移り、生活環境の変化とともにポスターも「商品の宣伝」から「環境保護や福祉問題(ユニセフなど)」へ変化しました。また、市立美術館のほとんどがサヴィニャック作品で飾られるなどトゥルーヴィル市民に歓迎されたサヴィニャックは観光案内所のために空色の地に2羽のかもめがくちばしをつつき合っているデザインの旗や地元商店のポスターや外壁画を制作しました。
こうして遅咲きのポスター職人は年をとっても勢力的に活動をつづけ、多くのファンに愛されながら95歳の誕生日を迎える少し前の2002年10月30日の最後の日まで震える手でデッサンを描き続けました。
日本とサヴィニャック
日本で初めてお目見えしたサヴィニャック作品は1958年の「森永ミルクチョコレート」。ポスターの左下には『このポスターはフランスの世界的作家サヴィニャック氏が森永チョコレートのために描かれたものです』と印刷されています。
他にも1979年「サントリー」、1989年「としまえん」、1999/2001年「クリスマスカンパニー」、2001/02年「木屋ギャラリー』など決して多くはありませんが、日本の街中をサヴィニャック作品が彩り、私たちに笑顔と元気を与えてくれました。
また、美術の教科書にも掲載され、名前こそ覚えていないけどその個性的な作風を記憶のどこかに残し、ふと訪れた輸入雑貨屋やカフェまたはレストラン、ぱらぱらと読んでいた雑誌の中やテレビ番組の中で改めてサヴィニャック作品と知った人もたくさんいると思います。